構造を読む2026-07-08 公開監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

ホテル業界の人手不足はなぜ起きているのか

この記事の要点

「なんでホテル業界って、いつも人手不足なんですかね」

この質問、実はとても良い質問です。皆さま、「人手不足」という言葉を聞いて、単に「大変な業界なんだな」で終わらせていませんか。僕は面談の中で、この言葉をそのまま鵜呑みにせず、構造を分解して見るようにしています。今回はホテル・旅館業界の人手不足を、3つの構造要因に分けて説明します。

0. 前提 — 人手不足感は業界の中でも高水準

民間の調査会社(帝国データバンク等)が定期的に公表している企業の人手不足感調査では、宿泊業は非正社員・正社員ともに人手不足を感じる企業の割合が全業種の中でも高い水準で推移しています。厚生労働省の職業安定業務統計でも、宿泊業・飲食サービス業の有効求人倍率は他の多くの業種を上回る水準です。「体感」ではなく、複数の公的・準公的統計が同じ方向を指し示しているというのが、まず押さえておきたい前提です。

1. 要因① シフト特性 — 「休みが不規則」という壁

1つ目の要因は、シフトの特性です。ホテル・旅館は365日稼働が前提で、繁忙期は土日祝・年末年始・大型連休に集中します。世の中の多くの人が休む日ほど忙しくなる、という構造そのものが、応募のハードルになっています。率直に言うと、これは業界の性質上、簡単には変えられない部分です。

ただし、この壁は職域によって濃淡があります。フロントや料飲は繁忙期の稼働が直撃しますが、施設運営のマネジメント層になると、シフト表を作る側に回るため、働き方の裁量が相対的に増える傾向があります。「シフトが不規則な業界」という一括りの理解ではなく、「どの職域なら自分の生活リズムと両立できるか」で見ることが大切です。

2. 要因② 賃金構造 — 「経験の値付け」が弱かった過去

2つ目は賃金構造です。賃金構造基本統計調査などのデータを見ると、宿泊業の賃金水準は全産業平均と比べて相対的に低めに位置づけられてきた経緯があります。これは業界の利益構造(客室単価・稼働率に強く依存する薄利多売型のビジネスモデル)が背景にあります。

ここが今回の隠れた主役です。この賃金構造は、訪日外国人消費額が過去最高を更新し、宿泊単価そのものが上昇傾向にある今、少しずつ変わり始めています。単価が上がれば、理論上は人件費に回せる原資も増えるからです。ただし、この変化が現場の給与テーブルに反映されるまでにはタイムラグがあり、「業界全体が儲かっている」と「自分の給与が上がる」の間には、まだギャップがあるのが実情です。

3. 要因③ 離職構造 — 「入口の広さ」と「定着の弱さ」

3つ目は離職構造です。ホテル・旅館業界は、未経験からでも比較的入りやすい「入口の広さ」がある一方で、体力的な負荷やシフトの不規則さから、数年での離職が発生しやすい構造を抱えています。これは業界特有の弱点であると同時に、経験者が相対的に希少になりやすい、という裏返しの側面も持っています。

3-1. 面接での聞かれ方

採用側は、この離職構造を熟知しているため、面接では「なぜ長く続けられると思うか」という質問を必ずと言っていいほど聞いてきます。ここで単に「頑張ります」で終わらせず、「シフト特性を理解した上で、自分の生活とどう両立させる計画か」を具体的に語れると、印象は大きく変わります。

3-2. よくある失敗

よくある失敗は、この構造を知らずに「とりあえず入ってみて、きつかったら辞めればいい」という前提で転職してしまうことです。業界の構造を理解した上での転職と、知らずに飛び込む転職とでは、入社後の納得感がまったく違います。

4. どう向き合うか — 構造を味方につける

人手不足という構造は、悪いことばかりではありません。需要が供給を上回っている状態は、経験者にとっては交渉力の源泉でもあります。シフトの不規則さが苦手なら施設運営マネジメント層を目指す、賃金構造の弱さが気になるなら単価の高い施設タイプ(都市部シティホテル・高級旅館)を狙う、というように、構造の弱点を自分の職域選びで回避する戦略が立てられます。

僕の周囲の実感で言うと、この業界で長く活躍している方に共通しているのは、「構造そのものを嫌って辞める」のではなく「構造の中で自分が心地よく働ける場所を見つけている」ことです。同じ人手不足の業界でも、施設によって組織文化やシフトの組み方には大きな差があります。1つの施設・1つの経験で「この業界は向いていない」と結論づける前に、構造を分解して見る視点を持ってほしいと思っています。

4-1. マネジメント層への移行という選択肢

シフトの不規則さや賃金構造の弱さを、現場のプレイヤーとして受け止め続けるのではなく、マネジメント層に移行することで構造そのものへの向き合い方を変える、という選択肢もあります。支配人や料飲責任者になると、シフトを組む側に回るため、自分の働き方の裁量が広がります。また、マネジメント層の給与は現場プレイヤーより高く設定されている施設が多く、賃金構造の弱さを部分的に相殺できます。ただし、マネジメント層への移行には、現場経験に加えて数字(稼働率・売上・人件費率など)を扱う経験が求められるため、計画的な準備が必要です。

5. 賃金構造の変化の兆し — DXと生産性向上の動き

宿泊業界では近年、フロント業務の一部自動化(セルフチェックイン機・多言語対応チャットボット等)や、清掃業務の効率化ツール導入といったDX(デジタルトランスフォーメーション)の動きが進んでいます。これは「人の仕事が奪われる」という単純な話ではなく、定型業務を機械に任せ、人にしかできない非定型対応・接客の付加価値部分に人員を再配置するという流れです。この流れが進むと、定型業務中心の職域は相対的に減り、非定型対応やマネジメントができる人材の価値がさらに高まっていくと僕は見ています。

6. 業界内の格差 — 「同じホテル業界」でも差は大きい

ここまで業界全体の構造を見てきましたが、実際には同じ「ホテル業界」の中でも、賃金水準・労働環境には大きな差があります。外資系高級ホテルチェーン、国内大手ホテルチェーン、独立系の中小ホテル・旅館とでは、給与テーブル・福利厚生・教育制度に明確な違いがあります。一般論として「ホテル業界は大変」で片付けず、どの層のどの施設が自分に合っているかを見極める視点を持つことが、この業界で長く納得感を持って働くための鍵になります。

6-1. 「稼働率」という指標を自分の目で確かめる方法

賃金構造・人手不足の背景にある「稼働率」という指標は、実は求職者側でもある程度確認できます。宿泊予約サイトで、狙っている施設の空室状況を平日・週末・繁忙期でそれぞれ確認してみると、その施設のおおよその繁忙度が見えてきます。稼働率が高い施設は、当然ながら現場の負荷も高くなりますが、同時に売上・利益も出やすく、賃金や待遇に反映されやすい傾向があります。逆に稼働率が低い施設は、負荷は軽いかもしれませんが、賃金原資そのものが限られているリスクがあります。この視点は、求人票だけでは分からない情報を補う手がかりになります。

6-2. 「働きやすさ」の指標としての離職率公開

近年、一部の大手ホテルチェーンでは、採用サイト上で離職率やスタッフの平均勤続年数を公開する動きが出てきています。これは求職者にとって、施設選びの重要な判断材料になります。求人票に離職率の記載がない場合でも、面接の場で「平均勤続年数はどのくらいですか」と質問することは失礼にはあたりません。むしろ、この質問をすることで、採用側に「長く働くことを真剣に考えている候補者」という印象を与えることもできます。数字を隠す施設より、正直に開示する施設のほうが、組織として健全である可能性が高いというのが僕の見立てです。

6-3. 人手不足構造とキャリアの相性を考える

ここまで見てきた3つの構造要因(シフト特性・賃金構造・離職構造)は、業界を避ける理由にも、業界に入るチャンスにもなり得ます。大切なのは、これらの構造を自分のライフステージ・価値観と照らし合わせて判断することです。20代でとにかく経験を積みたい方には、離職構造の裏にある「入口の広さ」がチャンスになりますし、家庭との両立を重視する30代・40代には、シフトの裁量が広がるマネジメント層への道筋を早めに描くことが重要になります。同じ構造でも、見る人のライフステージによって「壁」にも「機会」にもなる、というのがこの業界の面白いところだと僕は感じています。

7. 実務パート — 構造を自分ごとにする3つの確認

①(15分)気になる施設の求人票で、シフトパターン(早番・遅番・夜勤の有無)を具体的に確認する。②(15分)その施設の客室単価帯・平均稼働率がおおよそどの水準かを、施設の公式サイトや口コミサイトから推測する。③(10分)自分の生活リズムと、その施設のシフト特性が本当に両立できるかを紙に書き出す。

(結論)人手不足は「一枚岩の困難」ではなく「分解できる構造」

まとめます。①ホテル・旅館業界の人手不足は複数の統計が示す実態である。②要因はシフト特性・賃金構造・離職構造の3つに分解できる。③それぞれの要因は職域・施設タイプの選び方次第で回避・軽減できる。④構造を理解した転職は、知らずに飛び込む転職より入社後の納得感が高い。

皆さんいかがでしたでしょうか。自分に合う職域・施設タイプがどこかは、15問の適性診断で確かめられます。では今日もがんばりましょう。

よくある質問

Q. ホテル業界の人手不足の原因は何ですか

記事では3つの構造要因に分解しています。1つ目はシフト特性で、365日稼働かつ土日祝・年末年始など世の中が休む日ほど忙しくなるため応募のハードルが高い点。2つ目は賃金構造で、薄利多売型のビジネスモデルを背景に宿泊業の賃金が全産業平均より相対的に低めに位置づけられてきた点。3つ目は離職構造で、未経験でも入りやすい入口の広さがある一方、体力的負荷やシフトの不規則さから数年での離職が起きやすい点です。

Q. 人手不足の業界でも長く働くにはどうすればいいですか

記事では、構造を嫌って辞めるのではなく、構造の中で心地よく働ける場所を見つけることが鍵だとしています。シフトの不規則さが苦手なら施設運営マネジメント層を目指す、賃金構造の弱さが気になるなら都市部シティホテルや高級旅館など単価の高い施設を狙う、といった職域選びで弱点を回避する戦略が立てられます。同じ人手不足の業界でも施設によって組織文化やシフトの組み方に差があるため、構造を分解して見る視点が大切です。

Q. 面接で施設の働きやすさを見極める方法はありますか

記事では、面接で「平均勤続年数はどのくらいですか」と質問することは失礼にあたらず、むしろ長く働く意欲のある候補者という印象を与えられるとしています。近年は採用サイトで離職率や平均勤続年数を公開する大手チェーンも出ており、数字を正直に開示する施設のほうが組織として健全な可能性が高いという見立てです。また宿泊予約サイトで平日・週末・繁忙期の空室状況を確認し、稼働率を推測する方法も紹介されています。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

この記事を、eBookで持ち帰る。 本記事をスライド形式のPDF(16:9)に再構成しました。お名前とメールのご登録だけで、その場でダウンロードできます。

構造を理解した上で、自分の職場選びに活かす

15問の適性診断で、あなたに合う施設タイプ・職域が見えてきます。登録不要・約5分。

適性診断をやってみる → キャリア面談をする →

あわせて読む